戦略的思考力の向上
「MBAの社内公募がある。チャレンジしてみてはどうだ?」上司からのこの言葉が、私にきっかけを与えてくれました。
私は大学卒業後、銀行に就職し、主に投資銀行分野でキャリアを積んできました。キャリアの中でも、あるブルーチップのお客さまの経営計画立案にご協力させて頂いた事案は特に印象深いものでした。お客さまの経営課題を見定め、その解決に資する経営・財務戦略をご提案する――。幸いにして、お客さまに提案内容をお喜び頂き、全面採用されたことで、バンカーとしての醍醐味を味わうことが出来ました。同時に、戦略的思考の基盤を強化し、より多くのお客さまの発展に貢献したいという想いを持ちました。そうした中、上司は私に助言をしてくれました。
社内公募に通過し、数ある国内外の受験選択肢の内、“理論と現実の往復運動”を標榜するHMBAに魅かれ、入学するに至りました。先人の理論に照らして現実を観察し、理論との乖離要因について考察を繰り返すことこそ、戦略的思考の要諦を理解し、その基盤を強化する最善の方法だと考えたからです。
戦略的思考の要諦は何か――?HMBAでの理論と現実の往復運動の積み重ねの結果、その答えが“フィット”という概念にあると考えるに至りました。これは、経営戦略の授業で採用されたテキストにおいて記載されていた概念であり、先人の理論と言えるでしょう。
フィットとは、自身の能力・資源・価値観と外部環境を照らし合わせ、本質的要素を識別した上で、あるべき相互作用を機能させること、と私は理解しました。己を知り環境を知る、ということです。更に言えば、自身と外部環境は変化するため、適切なフィットは時間軸を持って検討することが必要となります。
至極当たり前であり直覚的であるが故に、フィットの実行は非常に難しいと感じています。理論通り奏功しなかった現実の事例にはフィットの障害となった真因が存在し、その検証作業の果実は、将来の礎になると考えます。
企業の事例から自分自身のキャリアに至るまで、あるべきフィットを選択する過程とその結果について深く検討出来るようになりました。一連の理論と現実の往復運動により、戦略的思考力が向上したことを実感しています。
更に、事案の検証過程で、失敗との付き合い方の大切さを学びました。フィットを選択したとしても望み通りの結果が得られるとは限らず、その際の困難への対応にこそ真価が問われると考えています。失敗は付き物ですが、真摯な対応が大切だと換言出来ます。この点において、知的・精神的な学びと成長がありました。
お客さまや所属企業をはじめ、周囲の支えにより私はこれまでキャリアを構築することが出来ました。私はその恩義に報いなければなりません。特に、足許では企業経営を取り巻く環境は厳しさを増しており、将来の進路を見通すことが難しくなっています。そうした中、HMBAで強化した戦略的思考を基礎として、最適なフィットを実現する進路を共に探り、実行に移すことで、お客さま、そして所属企業ひいては社会の発展に貢献したいと考えています。
(2016年10月28日)