多様な立場を知り、より良い意思を創造する
私は財務省で働いており、かつて内閣府に出向していた際に、経済分析の仕事をすることがありました。その際に、日本企業で内部留保が蓄積されても、投資が伸びない理由がわからず皆悩むということがあり、企業がどういった行動様式をもっているのかを知りたいと思いました。そこでHMBA(現、経営分析プログラム)への国内留学の機会があった際に、自分から志望しました。官庁からの出向ということで、一橋の国際・公共政策大学院にするか、HMBAにするか悩んだのですが、企業経営や企業の行動の背景をもっと知りたかったのでHMBAに進学しました。
財務・会計について知識を深めたいと考え、会計財務の科目を中心に学びました。授業では企業の経営の実態に対して、会計情報を通じて把握することができることに感銘を受けました。具体的にはとくに財務会計の授業が印象に残っています。例えばこんなことがありました。その日の授業は小野薬品工業を取り上げ、中長期的な投資を行うべきか、それとも株主に利益を還元すべきかが議論されました。私は前者の立場に立ち、論陣を張ったのですが、先生から次々と鋭い質問がありました。全受講生の前で先生と2人だけでいくつもの問答が続く中で、先生の質問を通じて、株主に投資の必要性を説明して納得してもらうとはどういう意味をもつのかについて深く考えさせられました。正直なところ、それまで私は株主の重要性についてほとんど考えたことはありませんでした。このときの経験がたいへん印象に残っています。
HMBAでは少人数で議論することで、以前よりも自分の意見を客観的に見た上で、他者の意見を受け入れたり、自分の意見を発信したりすることにより積極的になれたと思います。以前は自分の作った考えを上に通すために、上司からの反論に対していかに答えるかという姿勢でしたが、他者の意見を柔軟に取り入れることで、意見をより良いものにし、かつ自分の意見として言うべきことはしっかり言うという姿勢が身につきました。この姿勢は、ワークショップを通じて更に培われました。ワークショップの研究テーマは「地方銀行の合併の効果と課題は何か」です。より具体的には、財務データを通じた合併行と銀行全体の比較、持株会社を通じた統合事例と合併事例の比較という二つのアプローチにより研究を進めています。ワークショップでは、先生や受講生の方から様々なアドバイスをいただき、自分の研究の至らない点は見直しつつ、他の受講生の方の研究についても自分の方からできる限り積極的に意見を述べるようにしました。
官庁に戻り、そこでの仕事にしっかり取り組みたいと考えています。仕事では異動が多く、官庁間の人事交流もあるので、将来どういった仕事についたとしても、それぞれの仕事の関係者がおり、その立場や見解はいろいろあると思います。そうした際に、多様な立場、意見をふまえて、それに柔軟に対応しつつ、自分として最大限の貢献をしていきたいと思います。HMBAでは、グループワークやその他の授業などで、自分の考えで足りないところに気づき、他者の意見を取り入れてそれをより良いものにしていくという経験ができました。こうした経験を今後生かしていけば、より良い仕事ができると思います。いずれの仕事においても自己研鑽に努めつつ、多様な関係者の存在やその意見も踏まえて柔軟に対応し、ベストプラクティスを目指していきたいと考えています。加えて、仕事を通じてできるだけ多くの人に貢献できるような、そんな仕事ができたらと思います。
(2018年11月12日)