戦略的思考が徹底的に鍛えられ、思考に終わりはないと気づかせてくれる
国際空港の管理運営会社に入社して9年目のタイミングで入学しました。会社では、まずは財務部を2年間経験し、その後、経営計画部で中期経営計画策定に携わるようになりました。その際に経営層の集まる会議に同席する機会が増え、経営者の視点を意識するようになったのです。近視眼的である自分自身に危機感を覚え、経営について集中的に一から勉強したいと思いました。すぐにもMBAで学びたいと考えましたが、先輩社員から、もう少し社内で経験を積んでからの方がよいとアドバイスされました。その後、リテール営業部も経験し、2021年度にMBA派遣の社内選考を通過して、一橋ビジネススクール(経営分析プログラム)に入学できました。複数の仕事を経た9年目というのは、自社への理解が深まり、私にとって確かにちょうどよいタイミングでした。
入学後の授業は想像を超えるものでした。私は当初、知識を得たいという思いが強く、授業ではフレームワークや理論を学ぶのだと思い込んでいました。しかし、そうした知識はあくまで前提であり、実際に求められていたのは、それらを用いて様々な事象について深く思考することでした。
深い思考こそが求められているのだと特に痛感させられたのは、藤原雅俊教授の「戦略分析」の授業でした。戦略分析は、実在する企業のビジネスでの成功や失敗について、その背後にあるメカニズムを討議形式で徹底的に解明する授業です。討議を通じて、経営戦略に関する基本的なフレームワークや考え方を日常の戦略的思考に定着させることを狙っています。
この授業では3つのことが強く印象に残りました。まずは、システム思考の重要性です。成功や失敗には必ず様々な要因が影響を与えています。それらの要因を列挙するだけでなく、要因間の因果関係を図式化することで複雑な事象を体系化し、本質的な要因がどこにあるのかを突き止めます。このときには時間展開を意識し、長期的な変化のプロセスに着目するため、より深く思考する力が鍛えられたと感じています。
2つ目は、私たちが討議した内容やそこで生じた疑問点を、その企業の当事者へぶつける機会があったことです。討議には、題材の企業の方にもご同席いただきました。事前に課題図書を読み、「これが本質的な要因だったのではないか」と自らの考えをまとめてからその場に臨みます。それでも、その企業が何をもって当時そうした判断に至ったのか、「現実」の話を聞くことで、見落としていた要因や、自らの“思い込み”に気づかされ、より実践的な思考力を培えたように思います。
3つ目は、フレームワークや思考法を学んだからと言って、すぐさま優れた戦略家になれるわけではないと実感したことです。グループワークで、実在する大企業への10年先を見据えた戦略提言を経験しました。学んだことを駆使して戦略を立案するものの、最後に提案に落とし込むときには、果たしてこれが本当に最良の戦略なのかと不安になりました。過去の事例を紐解くのとは異なる、実践の難しさを痛感したのです。また、だからこそ、決断の拠り所として戦略的思考が重要になるとも実感できました。
新たな気づきもありました。それは「わかった」と思った瞬間こそが、最も危険な瞬間だということです。「わかった」と感じていたとしても、いざ討議となると、他の受講生から私が気づかなかった見解が次々と提示されます。そうした経験をするたびに、「わかった」と思い込んで思考停止に陥っていたのだと気づかされました。他の授業のレポートでも「もっと深く考えられるはず」というコメントをもらったことがあります。思考に終わりはない、終わらせてはいけない。MBAはまさにスタート地点であり、思考力は一生をかけて磨き続けるものだと痛感しました。
一橋の授業では経営、会計、ファイナンス、マーケティングなどの幅広い分野が網羅され、その上、理論的な知識に基づく確固たる分析力や思考力を培うことに重点を置く、重厚感のあるカリキュラムが組まれています。まだ1年が経過しただけですが、そうした学びの成果は、私なりにすでに表れていると感じています。例えば社内で起きている事象についても、以前は無関係に見えていた複数の問題が実は繋がっているなどと、全く違う側面が見えるようになったのです。今後はこうした視点も含め、私自身がMBAで得たものを、企業派遣という形で学びの場を与えてくれた会社に還元できるよう、最大限に活用していきたいと思っています。
戦略的思考が徹底的に鍛えられる—— これが、一橋ビジネススクールで学ぶ 最大のメリットだと感じています。しかし、私が得たものはそれだけではありません。全日制の経営分析プログラムに入学し、自分の時間を自己研鑽だけに費やせ、濃密な時間を過ごせたことは、これからの人生の糧になるはずです。日射しの強い初夏の日、授業が終わってから、仲間内で授業の延長戦のような議論をしたことがありました。昼食をとりながら屋外で話し続け、気づけば2時間も経っていました。そうした仲間と出会えたことも、私にとってかけがえのない大きな財産です。
(2022年4月掲載)